国内大手エンジニアリング企業・東洋エンジニアリング(以下、TOYO)は、主力事業であるプラントEPC(設計・調達・建設)の飛躍的な生産性向上を実現するため、独自のDX戦略「DXoT(Digital Transformation of TOYO)」を推進しています。「2025年までに生産性を6倍にする」という高い壁にTOYOはなぜ挑んでいるのか。DXoTの目的やプロジェクト事例などについて、DXoTの中核を担う3名のメンバーにお話を伺いました。
非連続的な成長には「全社的な改革」が欠かせない
DXoT推進部
部長/瀬尾 範章
NORIAKI
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- ―現在、TOYOは独自のDX戦略「DXoT」を推進しています。まずは、戦略の概要と狙いについて教えてください。
- DXoTは2021年に発表した中期経営計画の柱となる戦略です。TOYOは、どんな変化に対しても柔軟に対応できる、しなやかな組織・カルチャーを有した組織、そして飽くなき探求心から技術革新を生み出し、イノベーションを量産化できる企業に生まれ変わるため、「2025年までに生産性を6倍(2019年度比)にする」という目標を掲げています。
「生産性6倍」という数字に込められているのは「非連続的な成長を実現したい」というTOYOの強い思いです。
TOYOが手掛けるEPCを含め、建設業の生産性は1950年から約1.1倍しか成長していないというレポートがあります。一方で、製造業は約8.6倍に伸びています。その要因としては、建設業は製造業と違って画一的な商品設計や大量生産が難しいことや、天候などの影響を受けやすく不確実性が高いことなどの構造的な問題があります。しかし、産業全体でDXが加速度的に進むなかで、建設業ばかりが旧態依然とした姿でいるわけにはいきません。
だからこそTOYOが追求すべきなのは、地道な改善による連続的成長ではなく、業務の抜本的変革を通じた非連続的成長です。この目標を実現するためのKPIやロードマップはすでに設定されており、各部署がそれぞれの目標達成に向けて行動しています。 - ―DXoTの具体的な取り組みについて教えてください。
- DXoTでは3つの重点領域を定めており、現在は同時並行でさまざまな取り組みを行っています。
重点領域の1つ目は「CC(Commissioning-Construction) Driven Engineeringの実現」です。これはEPCの業務プロセスを変革する取り組みです。昨今の巨大化している建設プロジェクトにおいて、従来型のEPCプロジェクト遂行手法では、建設現場での「手待ち時間」を抑制することは困難になってきており、先に述べたように建設業の生産性が低迷する原因になっています。この課題を解決するためには、最終工程である試運転と建設の詳細計画に基づいた設計や調達の最適化が欠かせません。しかしながら、プロジェクトの大型化に伴う物量の大幅な増加、管理単位の細分化と個別化、管理者の増加によって、人力での全体調整と最適化は限界に達しており、デジタルツールを活用した新たなEPCプロジェクト遂行手法への変革が急務となっていました。
そこで、米国で提唱された建設工事のベストプラクティス「AWP(Advanced Work Packaging)」を適用し、試運転と建設の詳細計画手法の改革、その計画の実行性を高めるためのデータを中心とした業務スタイルへの変革、そしてデータをEPC横断で一元管理することによるプロジェクト全体の最適化、データに基づく意思決定の質の向上を目指した取り組みを行っています。これらの実現に必要なすべてのデジタルツールは、2022年11月に構築完了を予定しており、12月より新たなプロジェクト遂行手法の実運用を本格的に開始していく計画です。
2つ目は「Proactive Corporate Managementの遂行」です。これは、経営に対して適切な情報を適切なタイミングで、判断しやすい形で共有していくということです。経営側が会社の健康状態を分析・判定するためには、プロジェクトそれぞれの進捗状況を正しく把握することが必要です。ところが、これまでは各プロジェクトの詳細な進捗の報告が四半期ごとにされており、タイムリーとはいえない状況でした。
そこでプロジェクトの全体情報の更新周期をまずは1カ月に、より重要な情報の場合は週次、日次の更新に短くしていくことで、タイムリーにより正確な経営判断ができるようにしました。また、重要な投資、人財育成、営業・プロポーザルといった情報や連結経営の状況をリアルタイムに可視化し、経営資源の最適な配分、意思決定の高度化を進めています。
3つ目はデータの利活用により先を予見しプロジェクトの成功を重ねていくことを目的とした「データレバレッジによる持続的成長」です。TOYOは60年の企業活動のなかで、経営や事業に関する膨大なデータやノウハウを蓄積してきました。しかし、それがすぐに活用できる形にはなっていません。
エンジニアリング会社のプロジェクト運営はリスクマネジメントそのものです。プロジェクトの初期段階でいかにリスクを可視化・分析し、最後の引き渡しまで持って行くか。この「先読み」こそデータレバレッジで実現しようとしていることであり、「CC Driven Engineeringの実現」と「Proactive Corporate Managementの遂行」につながっていきます。
「まいた種を刈り取る」フェーズに求む、成長志向の人財
- ─DXoTの進捗をどのように感じていますか。
- 目指している水準に対しての達成率は約30%程度と捉えています。まだ道半ばではありますが、この2年間で約30システムの開発と導入が完了し、2022年度中にさらに約10システムの開発を計画しています。
これらのシステムを活用した業務改革による一定の効果も生まれ始めています。例えば、設計業務では10%以上の効率化、建設現場では部分的ですが10%の生産性向上が、成果として現れてきています。
並行して進めているのが、コーポレート改革です。社員一人一人の現場での改善・改革の成果が適切に評価されるよう、経営のKGIに現場のKPIの成果が反映できるように全社統一の指標を設け、社員が高いモチベーションで業務ができる仕組みも2022年度中に実装する計画で進めています。
なにより、DXoTの実現に向けたクラウドネーティブな基盤が整備されたことに大きな手応えを感じています。今後は、これまでまいてきた種を刈り取っていくフェーズといえるでしょう。新たなメンバーとともに、これまで築いてきたシステムや仕組みをフル活用し、PDCAを回しながら「生産性6倍」を実現に近づけていきます。 - ─DXoTをさらに推進していくうえで、どのような人財を求めていますか。
- 必ずしも同じ業界での経験は必須ではありませんが、成長に向けて前向きな努力を重ねられるマインドをお持ちの方は大歓迎です。TOYOはDXoTに本気で取り組んでおり、それに伴って組織文化も大きく変わりました。現場のメンバーが本部長に直接提案や相談を持ちかけることも少なくありません。そうしたなかでは「できない理由」を考えるのではなく、「どうすればできるのか」を模索する前向きな姿勢が求められます。
TOYOはグローバルな組織基盤があり、多彩なキャリアも築ける環境です。成長志向の強い方にぜひご応募いただけたらと思います。
AWPタスクチームが担う「EPCの業務プロセス変革」
配置・配管エンジニアリング部 配管エンジニア 兼 AWP
(Advanced Work Packaging)
タスクリーダー/川口 遼
RYO
KAWAGUCHI
- ─川口さんはDXoTの一環であるAWPタスクチームのリーダーを務められていますが、入社されてから現在までのキャリアを教えてください。
- 2009年に新卒入社してから現在まで、配置・配管エンジニアリング部の配管エンジニアとして勤務しています。配管エンジニアは、プラントにおける機器の配置や配管の経路を設計する仕事で、建設現場ではフィールドエンジニアとして工事のフォローアップにも携わります。これまで複数のプロジェクトに参加しており、海外拠点での設計業務や複数の建設現場の工事も経験しました。2018年のEPC統合推進部の設置に伴って配属され、配置・配管エンジニアリング部と兼務しながら業務に当たっています。EPC統合推進部での主業務として、EPCで組織されたAWPタスクに従事しています。
- ―AWPタスクチームのミッションや取り組みの事例をお聞かせください。
- AWPとは、北米の建設団体CII(Construction Industry Institute)によって提唱されたプロジェクト管理手法で、建設工事の生産性向上のために、設計・調達・工事の作業を細かいパッケージに分けて管理し、さまざまな制約条件を取り除いて効率的な建設遂行を実現するという考え方に基づくものです。AWPを実行するためには、EPC全体でのデータセントリックな業務への改革、そのために必要なシステムの開発が不可欠であり、AWPタスクチームではこれらに付随する活動を推進しています。
具体的には、AWPタスクチームが既存業務プロセスの分析とその改革案の起草を行い、EDT(Engineering Digital Twin)タスクチームをはじめとする全社展開されている他のDXoTタスクチームと連携して、その業務要件を満たすシステムの開発や実業務への適用を進めています。
10年後、20年後の未来のTOYOをつくるやりがい
- ─瀬尾さんから「AWPシステムの構築が2022年11月に完了予定」と伺いましたが、AWPタスクチームの活動によって、どのような成果が得られているのでしょうか。
- まず、「生産性6倍」の達成に向け、AWPを実施していくために必要な500以上もの新たな業務プロセスを構築できました。EPCでは一般的に設計、調達、工事の各部門が縦割りになりがちで、そのままでは各部門がいくら業務改革を実施しても個別最適になってしまい、飛躍的な生産性向上を実現することは困難です。しかしAWPの適用により、各部門が横断的に連携し、業務プロセス全体が最適化されたことで、目標達成に向けた体制が築けたと考えています。
こうした活動に伴い、組織文化の変革も進んでいます。以前は既存の業務プロセスを変更することへの抵抗や戸惑いも感じられましたが、新たに構築したシステムを提供し、実際に現場でそのメリットを実感してもらうことで、少しずつ認識が変わっていきました。現在では多くの社員が変革に対して前向きになり、DXoTの取り組みもより加速していると感じます。 - ─現在の業務のやりがいや魅力を、どのようなところに感じていますか。
- お客様の要求やプロセス要求に従って設計を進め、形にしていく配管エンジニアの仕事も魅力的ではありますが、AWPタスクチームでの仕事は、あるべき組織の姿や業務の形を自ら思い描き、具現化できるという、また違った面白さがあります。私自身、10年後、20年後のTOYOを今まさにつくっている実感があり、大きなやりがいを感じています。既存業務にとらわれず業務そのものを改善して成果を上げていくマインドを持った方や、組織・業務の全方面に対してさまざまなチャレンジをしたい方、また自らの仕事の成果を組織に反映させ組織づくりにも貢献したいという方に向いている環境でしょう。
これから入社される方には、常に問題意識を持って改革に臨むマインドや走りながら考えられる人財を求めたいです。AWPタスクチームに限らず、DXoTはまだまだ道半ばです。今後の目標達成に向けて、周りを巻き込みながら前向きに業務や課題解決に取り組んでいける方と一緒に働きたいと思います。
EDTタスクチームが目指す「設計工数50%削減」
配置・配管エンジニアリング部
配管エンジニア 兼 EDTタスクリーダー/森 勝信
KATSUNOBU
MORI
- ─森さんは配置・配管エンジニアリング部との兼任でEDTタスクチームのリーダーを務められていますが、入社されてから現在までのキャリアを教えてください。
- 2006年の入社以来、配置・配管エンジニアリング部で、主に配管の空間設計を担当してきました。これまでインドやインドネシアなどの海外プロジェクトにも複数参画し、直近ではマレーシアにおける大型エチレンプラントの建設プロジェクトに、技術指導を担当するテクニカルスーパーバイザーとして携わりました。
EDTタスクチームに配属されたのは、マレーシアから国内に戻ってきた2019年です。当時、私はマレーシアのプロジェクトで感じた課題を抽出し、リストにまとめようとしていました。マレーシアのプロジェクトは非常に大型で、私も250名ほどの現地社員を指揮していたのですが、紙の設計図などによる情報のやり取りに限界を感じており、新たな情報共有の仕組みが必要だと実感したからです。ちょうどそのときに、EDTタスクチームへの配属の話が持ち上がり、兼任を決めました。 - ―EDTタスクチームのミッションや業務内容をお聞かせください。
- EDTタスクチームのミッションは、DXoTの目標である「生産性6倍」を達成するため、2025年までに設計工数を50%削減することです。各設計部門間の一連のプロセスをデジタル化し、データを活用した「Data Centric Engineering」の体制を確立することで、工数の50%削減を目指します。
具体的な業務内容としては、大まかに2つあり、1つ目は個別業務のデジタル化です。従来EPCでは、紙の設計図やチェック表が数多く利用されていました。部門間の情報共有も紙で行われ、それに伴う転記やチェックの作業、書類の検索などにより、多大な工数がかかっていたのです。私の体感では、設計のコアな業務にかかる時間と紙の整理や管理にかかる作業時間の割合は、同程度だったように思います。そういった紙ベースの情報をBIツールなどの活用によりデータ化し、部門間の情報共有のインターフェースをデジタル化することで、プロジェクト全体における工数削減を図ろうとしています。
2つ目はデータの統合管理です。個別業務で生まれる設計情報を一元的に管理するプラットフォームを構築し、業務のなかで利活用しやすい形に整備しています。社員が業務に必要な情報を検索しやすくなるだけでなく、正しい情報が一つにまとまっていることで将来の予測やシミュレーションも行いやすくなり、経営陣による戦略策定や経営判断にも活用し、さらなる生産性向上につなげることを見込んでいます。
すでに現在までの成果として、約12%の設計工数削減を達成しました。配属当時の2019年には工数削減の事例が乏しく、初年度の成果は1%にも満たない状況だったことと比較すると、取り組みは順調だといえるでしょう。本年度中には工数削減は20%に達する見込みで、2025年までの工数50%削減も必ず実現できると確信しています。
環境が整い成果にコミットできる今は、入社の絶好機
- ―EDTタスクチームの取り組みには、社内外からどのような反応がありますか。
- Data Centric Engineeringの取り組みは、社外からも高い関心が寄せられています。例えば、エンジニアリングソフトウエアを提供する某外資系ソフトウエア企業からは「包括性が高く、革新的な取り組みである」と高い評価を受けています。
一般的に、プラントエンジニアリング業界におけるDXは、設計工程の一部をデジタル化するにとどまるケースが多いです。一方で、Data Centric Engineeringは、EPCの全工程を包括的にデジタル化し、各工程をデータで連携させることで、飛躍的な生産性向上を目指しています。「デジタルを活用して業務全体を変革する」という本質的なDXを実践している点が高く評価されているようです。 - ―最後に、EDTタスクチームの仕事の魅力ややりがいをお聞かせください。
- 私はTOYOに入社して15年以上たちますが、これまでの業務のなかで手がかかると感じていた作業が日に日に効率化されていることを実感し、うれしく思っています。エンジニアの立場からすれば、転記や整合性チェック、書類の検索に時間が割かれ、コア業務である設計などに集中できないのはストレスでしかありません。そうした状況を自らの手で変革できることが、大きなやりがいになっています。
その意味では、現在はTOYOに参画する絶好のタイミングではないでしょうか。現場のエンジニアにとっては、効率的で快適に業務に専念できる環境が整いつつあり、DXoTを推進するプロジェクトメンバーも各チームで成果を出し始めています。自らの能力を十二分に発揮して活躍したいという方にとって、現在のTOYOには非常に魅力的なフィールドが広がっていると思います。